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高知美人(14日目の5)

In : 14日目, 修行の道場, Posted by 田原笠山 on 2008/11/01

「高知には美人が多いように思う」
とこの日の日記に書いている。
JR高知駅のベンチに座っていた。18時過ぎに高知駅に着いた。キオスクでおにぎりとパンを買って食べる。駅構内のレストランや食堂に入ろうかと考えたのだけれど、荷物とか身体の汚れが気になった。

「19時30分現在、駅に滞在中、眠い」
と続いて書いている。
眠りたいのに眠れない。高知駅は混雑していた。隣に座った女子高生の携帯メールを打つ手の動きが、妙に心地よかった。

「高知~新大阪、最短3時間18分(1時間に1本)7600円」というポスターが近くに貼ってあった。竹林寺からユリさんちまで徒歩3時間。わずか十数キロ。この3時間のあり方、それが文明。

その待合室には23時までいた。それから土佐電鉄高知駅前停留所のベンチに移動した。そこがその夜のねぐらだった。長い1日。そして長い距離を歩いた。疲れと空腹、そして寒さと騒音と、わずか数時間前のボクと今のボク、本質と現象…全てを抱え込んだまま眠ろうともがいていた。

土佐電鉄高知駅前ベンチ

土佐電鉄高知駅前ベンチ

*土佐山田町 西岡善根宿~高知駅前
*土佐電鉄高知駅前ベンチ泊

(出費)
・スズキミート
カレー 360円
総菜 180円
(小計 540円)

・サンクス高知五台山店
イナババターピー 105円
ポリッピー 103円
ジャンボソーセージ 113円
ウェットティッシュ 135円
アクエリアス 125円
香典袋 105円
(小計 686円)

・高知駅キオスク
海賊むすび 198円
パン 150円
お茶 145円
(小計 493円)

・自販機
缶コーヒー2 240円
スポーツドリンク 150円

合計 2109円



踏みしめられた哀しみの夜とか(14日目の4)

In : 14日目, 修行の道場, Posted by 田原笠山 on 2008/11/01

「ボクもバイクで回ったことがあるんですよ」
と、その商店の若い経営者氏は言った。
「そうなんですか」
「はい、高知に住んでいるのですが、やはり遍路はやってみないと分からないですしね。随分いろいろな人に接待していただきました」と、バイクで回った遍路のことを話してくれた。そして「こんな札所も霊場もない場所にお遍路さんがいたもので、見たときに驚いたのですよ」と。確かに遍路道を外れてしまうと、そういう姿は非日常的になり異様なものにも写るのかもしれない。例え四国であったとしても。

ユリさんの実家に着いたのは17時少し前。経営者氏は「それじゃあ、お気を付けて」と、Uターンして今来た方向へ運転していった。ボクはその家の表札を確かめた。そしてドアベルを押した。返事は帰ってこなかった。留守のようだった。

それから、香典の用意をした。袋を買ったままだった。そうしていると、男の人が玄関に近づき、ポケットから取り出した鍵をドアに差し込んだ。そういえばどこかユリさんに似ている人だった。

「○○さんでしょうか」
「はい、そうです」
「わたし、田原と申します。先日はお手紙わざわざありがとうございました」
「ああ、あなたですか」

それから、なぜボクが遍路姿でそこに立っているのか、徳島でユリさんの死を知った、ということを手短に話した。そして、突然にお邪魔することになった非礼をわびた。

通された部屋にユリさんの位牌はあった。線香を供え、合掌した。香典も供えた。一気に何か気持ちが抜けてゆくように感じた。ちょうどジェットコースターで落ちる時のように、体液がふっと浮き上がる感じがした。

同時に涙が流れた。押し込められていた疲れも、その位置で解放されるように感じていた。言葉が見つからなかった。何を話していいのかも、分からなかった。そういう準備もしていなかった。ただ歩いていた。そして、そこがボクの目的地でもあった。

ユリさんのお兄さんも寡黙な人だった。それでも、亡くなるまでの数ヶ月のことを話してくれた。ある日突然死を宣告されること、それがどういうことかは、ボクたちには分からなかった。「哀しみ」や「苦しみ」なんて陳腐でチープな語彙を使うことは、そのまま死者を冒涜するようにも感じた。誰も分かりはしない。それが死というものの位置なのだ。

何を話したのだろうか。そして何を話さなかったのだろうか。その30分ほどの時間は、長くもあり短くもあった。ボクはそれ以上居ることが出来なかった。外に出て、誰憚られることなく感情をそのまま吐露したかった。叫びたかったし泣きたかった。それが供養だとも感じていた。

ボクは「じゃあ、ユリさん、またね」と言った。「それでは、おじゃましました」と言って、立ち上がった。そして玄関を出た。あと10分ほどの夕闇だった。ボクは歩いた。その夜のねぐらは決まっていなかった。どうでも言いことのようにも思っていた。

ボクは高知駅に向かって歩いていた。靴底まで夜だった。

高知市内

高知市内

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