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納経帳の値段(34日目の3)

In : 34日目, 菩提の道場, Posted by 田原笠山 on 2008/11/21

13時30分に五十五番札所南光坊に着いた。雨はすっかり上がっていたのだけれど、雨雲が散らばっていた。延命寺からの1時間が長く感じられた。雨のせいではなくて、気持ちのせいだったのだけれど。

本堂、大師堂と納経が終わり納経所に行った。そうするとお寺の人が「あ、やっぱり名前を書いてないね」とボクの納経帳を見て言った。それから「失くしたりしたときに書いていたほうが良いですよ」と、そして「これから先は特に注意したほうがいいですよ」と教えてくれた。そういう話は聞いた事があった。要するに五十五もの札所の墨書・朱印を押した納経帳を狙う人がいるというとこだ。ネットオークションでも売買されていたりもする。また代理遍路、一箇所いくらで四国遍路を職業としてやっている人もいる。

値段が付くのだ。それもかなり高額で。
札所一か所につき300円で墨書・朱印押印していただくので、八十八か所だと26400円かかる。プラス納経帳自体が1500円以上なので、28000円が最低でもかかっているので出品するほうはそれ以上の金額になる。(もちろんどういった経路で入手したかにもよるだろうけれど)

中には10万円という出品価格もある。確かに納経帳はそんな値段ではないと思う。車で回ったとしても1週間、それだけの日数が必要なのだから。まして歩きで回って40日50日かかったとしたら10万円でも安いと思う。

オークションに出品されている納経帳。10万円の最低落札価格。

オークションに出品されている納経帳。10万円の最低落札価格。

そういうニーズがあるのだから、なんともボクには言えない。身体が動かなくて、それでもその聖なるものを欲しいという人がいるとしたら、それはそれでお接待なのだろうから。その人のことを念じながら歩いたとしたら、それはそれで価値あるものだろうから、代理遍路も悪いことではないと思う。

それが犯罪に繋がらなければの話なのだけれど。
納経帳を狙う人がいるという噂は何度か聞いた事があった。名前を書くということは分からなかった。南光坊のお寺の人はそのことを言っているのだ。そして「私でよければ書きましょうか」と言った。「ええ、お願いします」と言って「ただ、ボクの名前ではなくて母の名前を書いてください」と付け加えた。

「お母さんの代りにお参りなされているのですか」
「ええ、それもありますけれど、納経帳は母への贈り物にしようと考えていましたから」と言った。お寺の人は「為」という文字を入れて母の名前を書いてくれた。そして「お母さんもお喜びになりますよ」と言ってくれた。「ありがとうございます」とボクは言った。

それからボクはポートサイド今治への道を訊ねた。詳しく教えていただいた。
救われた気持ちがした。それからボクは礼を言って、南光坊を後にした。雨のにおいがした。枯葉のにおいも重なった。海のにおいも近かった。14時だった。

南光坊山門四天王像

南光坊山門四天王像



龍光寺から佛木寺へ(29日目の2)

In : 29日目, 菩提の道場, Posted by 田原笠山 on 2008/11/16

彼ら、宿毛で二度目の再会を果たした年配の二人連れ遍路さんたちに、また会ったのだ。ボクが階段を登って龍光寺の境内に着くと、彼らは出発の準備をしていた。挨拶をする。するとすかさず「階段を下りたところで納経帳を忘れたことに気がついてね、また戻って来たのよ」と話してくれた。「ああ、それは大変でしたね。でも早目に気が付いてよかったですね」と言った。それから少し話して、彼らはまた階段を下りていった。ボクは本堂へと向かった。

龍光寺にて

龍光寺にて

この龍光寺では思い出がある。それは納経所のお婆さんが、ボクの納経帳を見て「これからはお寺も多くなるから、下敷はもう2枚あったほうがいいから」と、新聞紙を切って下敷を作ってくれた。納経帳は一枚の髪を折った袋状になっていて、染みにくくはなっているものの、墨の量などで染みる場合がある。そのために袋の部分にカットした新聞紙を敷くのだけれど、その下敷きはもう2枚あったほうが今後は良いというのだ。1枚だと1寺から2寺分しかないので、この日のように1時間後には次の札所に着くという場合はまだ濡れている場合があるから、ということだった。

後ろには順番を待っている人たちがいた。ボクのほうが恐縮してしまっていた。お婆さんは、それでも何度かハサミで切って納経帳に合わせてくれた。そしてボクに渡してくれた。「はい、これで大丈夫だから」と、その70歳を過ぎている、いや80歳も近いだろう女性は微笑んでくれた。ありがたかった。

11時40分出発。裏山を通って県道に出た。それほど急峻でもなかったし、雨上がりではあったけれどぬかるんでもいなかった。それでも用心をしたのだろう2組ともその道を通らないで迂回して県道へ向かった。

12時10分、佛木寺着。日曜日だからなのだろうか、婦人会という感じの人たちがお接待をしていた。なんだか「ひとつ良いですか」なんてのは言いにくいものだ。「どうですか」と言われてはじめて「あ、すみません、ありがとうございます」なんていただける。その時は、人も多かったのだろう、受けられなかった。それはそれですこし哀しい気分になった。

12時40分、佛木寺出発。少し行ったところの休憩所で二人連れの遍路さんがお弁当を食べていた。ボクは「先に行ってます。また」と道路の反対側にいる彼らに挨拶をして歩いて行った。思ったとおりコンビにも銀行もATMもなかった。そうなるとお腹が空いてきた。不安になってきた。

冬は確実に近づいていた

冬は確実に近づいていた