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歩き遍路の恥ずかしい話(9日目の3)

In : 9日目, 発心の地, Posted by 田原笠山 on 2008/10/27

ローソン海陽町杉谷店の駐車場でサンドイッチの朝食を食べて、ボクは歩き始めた。しばらくしてヘンロ小屋第一号香峰があった。今まで見たヘンロ小屋とは違っていて、流しまであってそこで生活できそうな家だった。テーブルの上には「どうぞお飲みください」という手紙とオロナミンCが置いてあった。少し考えたのだけれど、いただくことにした。

「お接待」は断ってはいけないと言われている。それはお接待を行うことによって功徳になるということと、お接待を受けた人がその人の代わりにお参りをしてくれる、ということらしいのだ。要するに「情けは人のためならず」のような精神なのだろうと思った。

断るということがあると、お接待する方もなにかしらのプレッシャーを感じるだろうし…。断れれるということは、多少なりともダメージを受ける。例えば「好きです」と言うときのような、「金貸して」と言うときのような…。そんな感じの。

ヘンロ小屋には20分ほどいただろうか。ボクは歩き始めた。

JR海部駅から先は、阿佐海岸鉄道阿佐東線という第三セクター鉄道が、高知県東洋町の甲浦駅までの8.5㎞をつないでいる。山側を時折一両編成の電車が走っていた。空と海、山という景色を少し近代的なものにしていた。

宍喰の手前の海岸で休憩した。おにぎりを2個食べた。食べ終わった頃に正午を告げるサイレンが鳴った。足の豆の治療をしたし、海をただ眺めていた。眺めることにあきたので立ち上がった。「よいしょ」と声を出した。そして歩き始めた。

道の駅宍喰の前はそのまま素通りした。すぐ横にあるホテルが少し威圧的に感じられていたからかもしれない。その先にあるヘンロ小屋で、ボクはまた休憩した。墓場の横にあるヘンロ小屋だった。そういう場所が似合っているようにも思えていた。死に装束をまとった遍路にとって、そこは不自然な場所ではなかった。そして四国に来る前のボクと言えば、もう半分死にかけていたのだから。

ボクはそのヘンロ小屋に荷物を下ろした。13時過ぎだった。もう少し遅かったら、その日のねぐらになったと思う。おにぎり1個とソーセージを食べた。少し眠くなっていた。ボクは国道を見ていた。呆然としていた。

するとKさんがやって来た。国道とヘンロ小屋は少し離れていたので、Kさんは小屋までは来なかった。ボクに聞こえるように「先に行ってるよ」と叫けぶように言って、先に進んで行った。きっと道の駅で休憩している間にボクが追い越したのだろうと思った。

しばらくすると、懐かしいシルエットが見えた。勝浦で会ったおじさんだった。ボクは手を振った。おじさんはボクのことが分からないのか、少しヘンロ小屋に近づいてからやっと手を振りかえしてくれら。そして小屋にやって来た。

懐かしかった。2日間が懐かしく感じた。その間のことを話し合った。おじさんは、昨日のお昼頃に薬王寺に着いて、どこかのドライブインで昼食バイキングを食べて、そのまま歩いて鯖瀬の鯖大師の通夜堂に泊まったとのことだった。そして今日は宍喰にお昼前に着いてホテルの温泉に2時間ほどいて、今出てきたところだ、とボクに話してくれた。

「休憩室で寝てたよ。そこの温泉は良いよ。久しぶりだったしね」
「そうですか。ボクは昨日、田井ノ浜で水シャワー浴びたんですよ」
「寒かっただろ」
「そうですね。室戸までどうなるか分からなかったもんで…」
「今日はどうするんだ」
「まだ決めてないのですけれど、温泉入って来ようかなあ、って今、それは決めました」
「それが良いよ、それが良いよ」
と繰り返したのをハッキリと憶えている。

おじさんは立ち上がって「じゃあ、先に行ってるね」と小屋を後にした。ボクもすぐに立ち上がって「はいお気を付けて、またです」と言った。そして「ホテルリビエラししくい」に向かった。

入湯料は600円だった。気持ちの良い風呂だった。
ホテルリビエラししくい

平日の午後2時にしてはお客さんが多かった。その人たちの視線が少し気になった。一見さんだから珍しいのかな。なんてことも考えた。更衣室で白衣を着替えていて遍路だと分かっているから、それも珍しいのかなあ。それにちょっと茶髪だし…。普通はもっと真面目っぽいのかねえ…。

とボクは洗い場に行った。鏡に映ったボクを見て、ボクは「うっ」と声を出した。徳島で毛を剃っていたのを忘れていた。ボクの陰部はパイパン(というのだろうか、パイチン?)だった。少しだけ、ほんの少しだけ生えていたのだけれど、それが逆に「剃った」ということを証明していた。

ボクは恥ずかしかった。だけれど「遍路だしね」なんて考えた。きっと剃毛ってのは頭髪だけではないはずだし…。でも「あいつ女癖が悪くて、それが原因で遍路になったのかもよ」なんて思われてないかと、あるいは「ケジラミだよ」なんてことも…。術後なんてことは思われないだろうし、生えているのだから体質でもないだろうし…。

それからボクはゆっくりも出来ないで、早々と出てしまった。風呂場ではあまり堂々とするものではないね、と思った…。僧侶は剃毛するのだろうか。う~ん。

ヘンロ小屋宍喰、道の駅宍喰温泉
ヘンロ小屋、墓、道の駅



欲望の街で剃毛する(4日目の3)

In : 4日目, 発心の地, Posted by 田原笠山 on 2008/10/22

中鮎喰橋を渡るまでにすっかり夜になっていたのだけれど、ネオンや車のヘッドライトのヒカリでその夜は昨日の神山のものとは全く違うものになっていた。都会の夜、夜の照度が文明の度量衡なのかもしれないと思った。きっと、うまく伝わらないと思うのだけれど、それにわずか一日でカルチャーショックのようなものを感じるはずがないと思うのだろうけれど、ボクは感じていた。ちょうどアジアやアフリカから帰国した時の感覚に似ていた。

欲望の街。目の前に、手を伸ばせば、そして金さへあれば、何でも手に出来る。ボクはJR徳島線、くらもと駅のビジネスホテルに入った。そのビジネスホテル蔵宿が井戸寺から一番近いホテルだった。徳島駅前まで行けば大手チェーンホテルもあったのだけれど、もう動けなかった。18時を過ぎていた。

チェックインするとボクはまず洗濯を始めた。コインランドリーがなかったので洗面所での手洗いになった。風呂にも入った、というか、風呂に入いりながら洗濯をした。すすぎは浴槽の中でした。洗濯物をすすいでいるお湯の中にボクもいた。

それからコンビニに買い物に行った。雨が降り始めていた。ホテルに戻って遅い夕食を食べた。それからもう一度風呂に入った。今度は身体を洗った。久しぶりの風呂、久しぶりに身体を洗った。髭を剃った。そして陰毛も剃った。痒いとか毛じらみがいるとか、ということではなくて、入浴できない日々に身体を拭くのだけれど、その毛が邪魔になっていたのだ。ないほうが良いかなあ、と前から思っていた。少し恥ずかしかったのだけれど、そしてその後恥ずかしい思いをするのだけれど…。

4日ぶりの風呂だった。4日ぶりの布団だった。そして4日ぶりのテレビ、4日ぶりの電燈の下での夜、4日ぶりの無警戒な夜…。なんと4日の長かったことか、と思っていた。

雨は強く降っていた。このままだと明日も停滞かなあ、なんて考えていたし、チェックアウトはギリギリでしようか、と考えていた。筋肉が気持ちが身体中が弛緩していた。今朝の道の駅神山での出来事が遠い昔のように感じられた。

井戸寺にて

井戸寺にて

*道の駅神山~井戸寺、くらもと駅前
*ビジネスホテル蔵宿泊 5250円

*(出費)
・サンクス佐古八番町店
のり弁 385円
チャイ 105円
抹茶ラテ 105円
シーフードヌードル158円
(以上夕食)
スナックパン8P 179円
ブラックサンダー2個 62円
バターピーナッツ 105円
(小計 1099円)
・自動販売機
缶コーヒー 120円
スポーツドリンク2本 300円

合計 6769円