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ヤモリとクモと、ボクとゴキブリと(5日目の3)

In : 5日目, 発心の地, Posted by 田原笠山 on 2008/10/23

地蔵峠で雨は降り止んでいた。歩くことの苦しみや痛みがボクの哀しみを分散させていた。「逢いに行く」という気持ちもその苦痛をやわらげていたのかもしれない。行くため歩くのではなくて、行かなければならないから歩くのだ。

県道203号、車道に出ると、ボクはレインジャケットを脱いだ。峠越えで汗をかなりかいていた。

法花のバス停に着いたボクは、そこで休憩をした。荷物も下ろして、菅笠もはずして、靴も脱いだ。身体が軽くなる、緊張が緩む、そうすると秋風が体温を一気に下げる、濡れたシャツがそれを加速する。足を投げ出していた。身体はベンチから落ちるかもしれないというほどの角度を保っていた。

ひとりの女性が近づいてきた。バス営業所の中でバスを待っていたのだろう。そして「歩いて巡わられているのですか?」とボクに話しかけてきた。
「ええ」
「どちらからですか」
「○○からです」
「大変ですね。わたしも何度かお遍路をしたいと思ったことがあるのですが、主人が亡くなって、そしてわたしも体調を崩してしまいまして…」
「大変でしたね」
「あの、これで何か食べて下さい」
と封筒をいただいた。中には1000円が入っていた。(それはあとで開けて分かったのだけれど)
「ありがとうございます」とボクは納札を渡した。

弱っている時には必ず仏が現れる。ボクはそう思っていた。そう思ったのだけれど、それはどうもいけないことのように思った。どんなことがあっても、人に心配をかけるように見えることは、迷惑なことではないかと思っていた。

苦しくても、痛んでいても、悲しくても、怒っていても、どんな時でも、それらすべてが表面に行動に出てしまっているのではないか、と考えていた。そうすることによって、四国の人が、ボクを「助けなくては」と思うのではないか、と。(表面に出ないように我慢、あるいは抑制することは、特に怒りは最後まで出来なかったのだけれど…)

その女性はちょうど来たバスに乗り込もうと向かった。一歩進んで、またボクのほうへ振り向いた。「立江寺で、体調が良くなるようにお祈りして下さい」と言った。「はい、分かりました」とボクは答えた。そして「お名前だけでも」と、その女性の名前を聞いた。ボクは恩山寺と立江寺では、その人だけのためにお経を唱えた、そして「体調が回復しますように」と祈った。

人は病む。そしてユリさんは死んだ。そのことを考えていた。

歩き始めた。もうすぐ夕暮れがせまって来る。小松島市に入り、勝浦川橋を渡る。その橋の中ほど、反対車線のほうにへんろ小屋があった。先客あり。ボクはそのまま直進した。スーパーやハンバーガーショップがある交差点に着く頃には夕方から夜になっていた。ねぐらは決まっていなかった。

ボクは歩いた。病院の近くの道路の下にテントを張ろうかと思った。どこでもよかった。そこで少し休憩した。空模様が少し気がかりだった。雨は降ってはいなかったのだけれど、晴れ間も見えていたのだけれど…。

ボクは恩山寺を目指した。そして恩山寺入り口に着いた。バス停があった。そこに腰を下ろした。もう先には寺しかなかった。ボクはそこに寝ることにした。夕食を食べた。朝サンクスで買ったスナックパン8本入りを食べた。雨が少し降り出した。バスから降りた人たちはそのまま家路を急いでいた。バス停にはほとんど無関心だった。降りる人はいても、乗車する人はいなかった。ボクはシュラフを取り出した。もぐり込まないでその上に身体を横たえた。

ヘッドライトの灯で日記を書いた。壁にはヤモリが逆立ちしていた。クモも様子を窺っていた。その下でボクも蠢いていた。足もとでは大きなゴキブリが這い回っていた。同宿4匹。ボクの問いかけに誰も答えることはできなかった。沈黙が続いた。雨は少し強く降っていた。時折、その雨を轢いて車が通る。その音だけがボクと宇宙を繋ぐ全てのように思えた。ボクは眠りの中へ落ちて行った。

法花バス停
法花バス停にて

*ビジネスホテル蔵宿~恩山寺前バス停
*恩山時前バス停泊

*(出費)
・サンクス佐古八番町店
粗挽きソーセージパン 116円
赤飯おむすび 130円
直巻鳴門産わかめおにぎり 105円
具量感おにぎりダブル 280円
スナックパン 野菜と果物 179円
(小計 810円)
・自動販売機
缶コーヒー 120円
スポーツドリンク2本 280円
ペットボトル水 100円

合計 1310円



競艇おじさんとミスタースモーク、そして眠れぬ夜なのだ(1日目の4)

In : 1日目, 発心の地, Posted by 田原笠山 on 2008/10/19

上板スポーツ公園1塁側ベンチは、今思えば最高のベッドだった。三面壁、そして広いベンチ、静かな立地、トイレ・水完備、自販機まで徒歩30歩…。そうして四国初夜という不安をゲストたちが和らげてくれた。

弁当を食べて、そしてデザートのイチゴパンを食べ終えたボクは、洗髪をしようかと考えていた。疲れていた身体は重力に逆らえずにベンチに倒れこんでいた。洗髪しようと何度も考えた。考えたのだけれど、面倒でもあった。

しばらくすると、ボクにその最高のベッドを教えてくれたおじさんが、暗闇の中3塁ベースあたりからやってきた。1塁ファールグランドに来ると「さっきのお兄さんかね?」と。

「そうです、どうもありがとうございました。」

とボクは起き上がった。そして立ち上がって挨拶をした。それから1時間ほどいろいろな話をした。おじさんの過去の話が主な話題だったのだけれど…。大阪で暮らしていたというそのおじさんは競艇好きで、トラックの運転手としてかなりの額の収入もあったのだけれど、多くは競艇で消えてしまったことを、ボクに話してくれた。そして予想師の話、予想師になるには3000万円ほどの権利金がいるし、予想もそこそこ当てなければならない話、なんかをしてくれた。

「それじゃあの、お兄ちゃん、気をつけてな」
と、おじさんが帰った。20時を過ぎていた。ボクは、眠かった。

と、しばらくすると「缶はなかった?」と、いきなりお兄さんが訪れた。というか、ボクがそこにお邪魔していたのだけれど…。お兄さんはさらに「缶はなかった?」と聞いてきた。

何のことなのかさっぱりわからないボク。
「缶があったのだけれどなあ」
「……」

お兄さんはベンチの周辺をその「缶」を見つけようと探し回った。その「缶」は少し離れたところにあったらしく、見つけてそしてボクの前のベンチに前にその「缶」を置いて、彼も腰を降ろした。

タバコの吸殻用の缶だった。一斗缶、というのだろうか、食用油や塗料が入っている18リットル缶、その空缶を探していたのだった。そしてお兄さんはタバコを吸い始めた。消した、と思ったら、また吸い始めた。チェーンスモーカー…。

「お遍路さんですか?」
「はい」
「今日はここで泊まるのですか?」
「ええ、泊まらせていただこうと思っています」
「……」

タバコを消す、そしてタバコに火をつける。消す、つける。ベンチにいる間におそらく20本、一箱吸ったのではないのだろうか…。

沈黙。
「どこからですか」
「○○からです」
「ああ、あすこの○○高校は野球強いですね」
「そうですねえ、プロ野球選手もいますし」

野球の話をしばらくした。その間、もちろん、つける消すという、ことを繰り返していた。

「じゃあ、気をつけて」
お兄さんが帰った時には21時を過ぎていた。ボクは、少し苛立っていた。もう来ないでくれ、と思っていたし、たとえ来たとしても「寝たふりをするもんね、もんね、ぜったい、するもんね」と決心していた。

それからは、誰も来なかった。真夜中に、きっと1時か2時にアベックが来てグランドでふざけ合っていたのだけれど、20分ほどしていなくなったけれど、そのことはボクの睡眠を妨げたとしても、ボクが起き上がって会話をするということはなかったので、例えば夢を見ている感じだった。

ボクは、お兄さんが帰ってから(というのも変な表現なんだけれど)、髪を洗った。そしてタオルを濡らして身体を拭いた。身体を拭きながら思っていた。「毛が邪魔だな」と…。陰毛が邪魔、というか、その毛は洗髪できないので、特に不潔になるように感じていた。拭いたとしても地肌までは綺麗にはならないし…。洗おうかと思ったけれど、陰毛を洗っている、それもその部分だけを出して、そんな自分を想像したら……やめた。ボクはホテル上板1塁ベンチのベッドに戻った。

寝袋にもぐり込んだ。23時前だった。とにかくいろいろなことが、いまさっきまで起こりすぎた、と思っていた。そのことがボクの疲労度を増していたように思い出している。

ボクは、深夜のアベックがグラウンドを駈け巡るまで眠りに落ちた。なんとも長い一日だった。少し寒かった。

割れたガラス
金泉寺から大日寺に向かう途中で…。

*一番札所霊山寺~五番札所地蔵寺まで
*上板スポーツ公園泊

*(出費)納経代、お賽銭別
・極楽寺
山菜たきこみごはん400円
よもぎ餅2個170円
・自動販売機
スポーツドリンク2本300円
・スーパーでぐち
鮭弁当500円
イチゴパン140円
アクエリアス104円

(合計)1614円