Category : 22日目

らっきょうの花が咲く頃(22日目の1)

In : 22日目, 修行の道場, Posted by 田原笠山 on 2008/11/09

小雨の降る朝だった。
いずれにせよ動かないと食糧もなかったし、起きた時点でお腹も空いていた。「腹減った~」と叫んだ。

6時30分起床。
7時、テント撤収。と、同時に昨日のホームレスと思ったオジサンが登場した。それも車でだ。「おはよう」とかなり大きな声で言った。「あ、おはようございます」と、ボクは少し驚いて挨拶した。「よく眠れた」と訊いてきたので「はい、雨で少し寒かったですけれど」と答えた。「56号線じゃなくて、道の駅から右の道の方が近いからね」と教えてくれた。ボクは知っていたのだけれど「あ、そうなんですか」と知らないふりをした。

そうすることが正しいことのように思った。オジサンは「そうなんだよね。普通は56号線を通るんだけれど」と近くある案内板の所までふたりで行って、それに載っている地図を指さしながら教えてくれた。

大方遍路小屋

大方遍路小屋


「ありがとうございました。助かります」と言った。
「ああ、気をつけてね」と、オジサンは車に乗ってどこかへ行った。そのことを言うために来たのだろうか、と思った。ボクは、オジサンを「ホームレスかなあ」と思ったことについて、「悪い」という感情よりも「しかたないよね」と、そう思われるような風体とか態度とかを、少しおかしく感じていた。

海の近くだから「漁師の人かなあ」なんて考えていた。

7時30分出発。膝はまだ痛かった。それでもほぼ3日停滞したおかげでかなり治っているようにも思った。

8時、道の駅ビオスおおがた着。「ひなたや」で買い物。近くのベンチで弁当の朝食。近くに「七立栗」だったか、1年に7回も栗の花が咲く場所があって、温泉を掘り当てたのを機に「お遍路さんに立ち寄ってもらえるか」というアンケートをとっている女性に声をかけられた。まだ20代前半の高知弁ネイティブスピーカーだった。

高知を歩いていたとしても、そうした地元の人との触れあいはほとんどなかった。民宿を利用して歩き続ける遍路のほうが、地元を理解するのかもしれないと思った。食べ物にしても、地元の名物料理が出るだろうし。かといって毎日カツオのタタキもあきるだろうけれど…。

道の駅から十数キロというその七つ栗温泉、いくら弘法大師ゆかりの地とはいえ、歩き遍路にとっては、番外札所でもないし、「行く人は皆無だろう」と答えた。1キロ遠回りするのも疲れるのに…。

それから少し話をして、弁当を食べ終わると「それじゃあ、行きますね」と、別れた。

9時30分、海のバザールで休憩。雨は小降りだけれど降っていた。細く降っていたのだけれど、それでも歩いていると菅笠やレインジャケットには水滴として溜まっていった。

らっきょうが有名なんだろうね、花が咲いていました。

らっきょうが有名なんだろうね、花が咲いていました。



一番ダメな時の自分が本当の自分なんだろうね(22日目の2)

In : 22日目, 修行の道場, Posted by 田原笠山 on 2008/11/09

海のバザールを出発してから、小雨の降る中を歩いていた。
10時30分、県道42号線と339号線の交差点で休憩。缶コーヒーを飲む。ここ数日、あまり飲み食いしていなかったので、なんだかこの日は食べることが多くなっていた。

12時20分、四万十大橋の近く、スリーエフ中村竹島店に着く。食糧の買い出し。そして店の前のベンチでスニッカーズを食べて少し休憩。日記を書く。

雨止まず。

歩いても歩いても道ばかり
捨て去っても捨て去っても
ひろうものあり
迷っても迷っても日は暮れて
苦しんでも苦しんでも日は明ける

竹島の直線道 涙が流れる
膝は痛む、天気は悪い 気持ちは沈む

と日記に書いてある。雨は哀しい。

13時00分、スリーエフを出発。四万十大橋の手前で中村さん(中村市だからではないのだけれど)という自転車のオジサンから声をかけていただく。そして橋を一緒に渡る。橋の中程でその中村さんは「休憩するから」と言って、ベンチに座って、ポケットからカップ焼酎を取り出して飲み始めた。ボクは「先に行ってますね」と歩き続けた。

少しして中村さんが自転車に乗って追いついてきた。そして自転車を降りて、ボクと並んで歩く。そのまま橋を渡りきった。オジサンはそれから自転車に乗って先へ進んで行った。

四万十大橋が出来るは向こうの橋を渡った話とか、渡し船があったという話とかを聞かせてもらった。焼酎を飲むことと、自転車に乗ること、それが中村さんの哀しみなのかもしれないと思ったりした。街で焼酎を買って、それを家に帰り着くまでの飲み干す。家では嫁が「またお義父さん、お酒飲んで」なんて言うのかもしれないと、思ったりした。

雨、休憩する場所もないまま、伊豆田トンネルへ。長い。1610メートル。抜けるのに28分かかった。時計で計った。時速4キロも満たない速度だということに驚いた。随分とゆっくりになってると思った。それも膝が痛いからだろうと思った。

16時少し前、レストラン水車に到着。雨は降り止まず。ベンチに座って食事。そして日記に書く。


もう抜きつ抜かれつした人たちとは再会することもないのだろうと思う。3日近く停滞したし、時速4キロ以下の速度では追い抜けないだろうし。

「膝さえよければ」と何度か考えた…。でも、人生なんてそんなもので、例えば「数学が出来れば」とか「もう少し頭が良ければ」「もう少し容姿が良ければ」ということばかりで、それが煩悩なんてことなんだろうけれど、悪い部分、要するに「良ければ」という部分を含めて自分なのだから、そこと同化、そこを認識しないと、というか、それが「自分とは何か」ということの発見なのだろうから、その弱い(と思われる)部分も自分なのだということなのだから、それが発見、認識出来ることが大事なのだろう。

この痛みも自分なのだ。
だから、ゆっくりした歩行速度が本来の自分の速度なのだ。

と日記に書いた。

もう、その駐車場にある東屋に泊まることにした。冷えてきていた。

雨、菅笠と金剛杖

雨、菅笠と金剛杖



ドライブイン水車の湿っぽい夜だった(22日目の3)

In : 22日目, 修行の道場, Posted by 田原笠山 on 2008/11/09

雨は止んでいたのだけれど、換気の悪い温泉にいるのではないかと思うほど、空気はたっぷりと水分を吸って、底に澱んでいた。

ボクはレストラン水車の駐車場にいた。「ドライブイン」と呼ばれる広い駐車場とトイレをそなえたレストランだった。テントをどこに張るか、あるいは張らないか、考えていると、一人の青年がやって来た。

伊豆田トンネル

伊豆田トンネル


新伊豆田トンネル。長いトンネルは雨の日にはいいけれど、歩くと怖かったり臭かったりで…。

「こんにちは」
「こんにちは」とボクは答えた。そして「雨だね、今日はどこから」とその青年に尋ねた。
「分かりません」
「えっと、じゃあ何日目?」
「それも分かりません」

どこから来たのかということは、ボクも分からない時があった。街を離れると地名を知る術がない場所もあったからだ。それでも、その青年の受け答えは、どこか、なにか違っていて、記憶喪失者とはこういう感じなのかもしれない、とボクは考えていた。

「どうして?」と、何度かためらった言葉を口に出した。
「一度、お金が無くなって、帰ってアルバイトをして、また来たもので…」と、指を折って数え始めたけれど、途中で止めてしまった。
「ああ、なるほど。それじゃあ、何日目かは答えにくいよね」
「はい、それに地図も持ってないもので、どこなのか分からないんです」
「そうか。目印があるから、それを頼りに?」
「そうですね。だから時間もかかって」
「そうだろうね。迷ったりもするだろうし。地図持っていても迷う時あるしね」
「はい、それでも寄り道するのも楽しいです」
「ああ、なるほど、時間はたっぷりあるし?」
「はい、お金はないですけれど。お父さん、旅慣れてる感じしますね」

と、お父さんとボクのことを言った。少し驚いた。考えれば、20歳そこそこの青年にしてみれば、くたびれたオジサンはみんなお父さんなのかもしれないと、思った。そして「そうか?」と、少しお父さんぽく答えた。

「ええ、色々と行かれたんですか?」
「若いときはね」それ以上は話さなかった。

「今日はここですか?」と訊いてきた。
「そうだよ、ここにテントを張ろうかと思って」
「ボクは、向こうのバス停に泊まろうと思っています。テントないんで」
「ああ、バス停のほうが暖かいだろうね。トイレの横にも休憩所があるけれど、あすこは眠れないだろうし」と言った。

「そのデイパックのカバー、手作りなんだ」と言った。
「ええ、ビニール合羽を改造して作りました」
「すごいね」
「いや、全部安もので。肩のところも痛いんで100均でショルダーバッグ用のパットを買って当てているんですよ」と、その改造部分を見せてくれた。

「ああ、若い時は物に頼らない方が良いよ。体力もあるし、それに寄り添って感覚も鋭いだろうから。過信はよくないけれど、そのほうが好感が持てるよ、君みたいにね」と、話した。少し羨ましくもあった。彼の装備でボクが歩いて巡れる自信もなかった。

「じゃあ、失礼します」と彼は国道の方へ歩いて行った。たぶん、彼なりの旅をしている、というか旅自体を模索しているのだろうと思った。

犬の鳴き声がうるさかった。底に澱んでいる空気の上に夜が滲んでいた。

レストラン水車

レストラン水車


浮津海水浴場~土佐清水市レストラン水車
レストラン水車の横の東屋下でテント泊

(出費)
・道の駅 ビオスおおがた 「ひなたや」
日替わり弁当 400円
おむすびセット 250円
お寿司 300円
蒸しパン 200円
(小計 1150円)
#随分買ってしまって、お寿司は夕ご飯に食べた。

・スリーエフ中村竹島店
ピーナッツチョコ 105円
カロリーメイト 210円
バターピーナッツ 105円
スニッカーズ 121円
ブラックサンダー 32円
ポリッピー 105円
自着包帯 336円
(小計 1014円)
#ここで包帯を買って、膝を固定した。

・自動販売機
缶コーヒー×3 360円
スポーツドリンク 150円

合計 2674円