Category : 19日目

リタイア(19日目の1)

In : 19日目, 修行の道場, Posted by 田原笠山 on 2008/11/06

「三里の精神」
ゆったり
のんびり
じっくり

遍路小屋のノートに書いてあった。それが難しい。特に高知は寺と寺の間の距離が長いので、ついつい無理をしてしまう。そして故障をしてしまう。ボクのように。

鹿島が浦 鹿島

鹿島が浦 鹿島


小屋のすぐ横に駐車したトラックの音と排気ガスで熟睡も出来ずに5時起床。缶コーヒーを買って飲む。スナックスティックパン9本入りの朝食。それから片付けを始める。パッキングを済ませた。膝は昨日の朝よりも痛んだ。立ち上がる時には痛みで声が出る。そして一歩を踏み出すのに勇気がいる。

6時20分、名古屋から来たという66歳のおじさんが小屋を訪れる。高知まで打ち終えて1度帰宅したそうだ。そして再度高知からの始めたということで、前日は40キロを歩いて、佐賀温泉から金剛福寺までの70キロ強を2日、1日35キロを歩く予定だということだった。

「名古屋ですか。ボク、豊田とか田原にいたことあるんですよ」と言った。
「ああ、そうですか。仕事かなんかで?」
「はい、トヨタに」と、トヨタのことなんかを少し話して、遍路小屋の写真を一枚写してから出発していった。

その日はなかなか動き出せなかった。立ち上がると激しく痛んだ。グズグズ悩む…。

7時30分、出発。暖かい日だった。そして湿度も高かった。降水確率50%というメールが入る。「雨かもしれないなあ」と日記。伊与喜から熊井隧道経由で56号線に出る。

9時46分、スリーエフ佐賀店。バラエティサンドを食べて休憩。ドリンク剤も飲む。ビタミンを補給したところで、あるいはタウリンを補給したところで、膝の痛みに効くかは疑わしいと思った。

10時10分発。
10時40分、佐賀横浜トンネル出口で休憩。もう限界かもしれないと、思っていた。誰かタオルを投げてくれれば、そのまま帰りのバスか電車に乗ったかもしれない…。

Kさんが来た。「あれ、遅いですね」と、7時半に出発したボクのほうが後を歩いているものとばかり思っていた。
「ああ、佐賀温泉、朝食が7時30分からで、知らなくてね、きのう頼んだので、食べてきた。他の人は、朝食なしで早出したみたいだよ」
「そうでしたか。そういえば6時頃に名古屋からという人と少し話しました」
「そう。今日は?」
「どこまで行けるか、中村市街地(四万十市)まで行きたかったのですけれど」
「ちょっと長いけれど、それぐらいまで行かないと、明日もキツイよね」
「そうですね」
「じゃあ、先に行ってるね」
「はい、ボクは少し写真を写して行きますんで」と、ボクは言ったのだけれど、Kさんは聞き違えたのだろう「写真?良いよ」とポーズを取ったので、「あ、ありがとうございます」と数枚写した。

「写そうか?」と聞いてきた。
「え、ボクは…、ありがとうございます」と言った。
「じゃあね」「はい、また」

と別れた。

Kさんの写真がある。あの日の写真。ボクたちはあの瞬間から、もう会うことがなかった。そして恐らくもう二度と会うこともないのだろうと思う。ボクには分かっていた、その瞬間が最後だろうということが。それほど膝は痛かった。あとはどこで止まるか、そしてどうするかを決めなければと思った。悲しかった。

さよならKさん。この時が最後になりました。

さよならKさん。この時が最後になりました。



海坊主へ(19日目の2)

In : 19日目, 修行の道場, Posted by 田原笠山 on 2008/11/06

そこに立ち止まるわけにはいかなかった。
痛みが哀しみに変わる。雨の気配がしていた。冬の前の風景。風が強くなっていた。峠の坂道は海と空と山とボクの間にあって迷路のようだった。いろいろなことが哀しみを加速した。いっそ雨が降ってくれたほうが良いのに、と思った。そうしたら立ち止まることも出来るのに、と思った。人は哀しい。

Kさんの後ろ姿が坂道の向こうに消えるまで、ボクはそこに座って見ていた。それから、歯を食いしばって立ち上がった。取りあえずどこかに泊まろうと思った。今にも降りそうな空模様だった。

松山まで200キロ

松山まで200キロ


12時、白浜休憩所で昼食。スリーエフ佐賀店で買ったおにぎにを4個全部食べた。なにか物足りなかった。大方あたりの民宿に泊まろうと思った。とにかくそれから考えようと思った。12時30分発。

13時30分、伊田を過ぎたあたりのホテル海坊主にチェックイン。「少し早いのですが」と言ったら「ええ、かまいませんよ」と二階の部屋へ案内された。海が見える部屋だった。

「食事は18時で良いですか、お昼ご飯は」
「はい結構です。お昼は食べて来ました」
と言った。

いつものように、浴槽にお湯を張った。それから身体を沈めた。携帯電話を充電した、そして電話をした。
「もう痛くてね。それに雨が降りそうだから、民宿に泊まった」と言った。そして「前は海だよ」と続けた。「どうしようか」と言おうかと迷った。答えは分かっていた。

そして言ったとたんに気持ちが折れるということも分かっていた。沈黙が心を支える時のほうが多い。言葉は感情を加速する。というか、感情は言葉によって、その意味を持つ。

ボクは前の海のことを話した。雨が降り始めていた。ボクの目は、脱色された風景の表面を流れる雨にピントがあってしまっていた。

それから洗濯ををした。シュラフを広げた。少し寝た。

ホテル海坊主から伊の岬

ホテル海坊主から伊の岬



幸せ、なんだろうね(19日目の3)

In : 19日目, 修行の道場, Posted by 田原笠山 on 2008/11/06

風呂に入って、洗濯、その後に少し眠った。
目が覚めると17時あたりだった。暖房を入れていた部屋は少し暑かった。雨は上がっていて、いつものような雨上がりの空が窓の外に冷たく拡がっていた。

ホテル海坊主の夕食
食べ終えた夕食…。食べる前に写せばいいのだけれど、ひとりではないので…。こっそりと携帯カメラで…。

18時になると電話がなった。夕食が出来たという連絡だった。膝は少し良くなったような気がしていた。ボクは着替えてから階段を降りた。その日の客はボクともうひとりのようだった。ボクたちは少し離れた席で、ただ黙々と食べた。

それから部屋に戻って、また風呂に入った。そして膝をマッサージした。インドメタシン軟膏を塗ってから、布団に入った。寝ることが唯一の治療のように思えた。いくらでも眠れそうに思えたし、そのまま眠りに落ちた。

歩けるだけで幸せ
食えるだけで幸せ
眠れるだけで幸せ
語れる人がいれば幸せで
笑えればもっと幸せで
足が痛くて動けない時は、まだまだ生きているだけでも幸せかもしれない。

と日記に書いている、それほどの簡単な時間だった。何度か目がさめた暗闇の中、ボクは遠く聞こえる海の音を聞きながら、そんなことを考えていた。

ホテル海坊主から伊の岬
そして雨上がりの伊の岬

*佐賀温泉~黒潮町有井川 ホテル海坊主
*ホテル海坊主泊
ホテル海坊主

(出費)
・スリーエフ佐賀店
ブラックサンダーx2 64円
ナイススティック(9) 179円
バラエティサンド 230円
おにぎり昆布 105円
おにぎりツナマヨネーズ 110円
おにぎり高菜醤油 110円
おにぎり醤油焼鮭 130円
(小計 928円)

・自販機
缶コーヒー 120円
スポーツドリンク 150円

・宿泊代
ホテル海坊主(2食付き) 6300円

合計 7498円